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秋も終わり、北国故の長い冬の始まりが近いとある日、ミハイエールはテラタグラの目抜き通りに在る『見晴台』の建物を訪れた。
世話人の一人であるロートンが、ちょうど応対台越しに先客と話をしている真っ最中だった。
ロートンは気安く、ミハイエールへと声を掛けてくる。
「お、ミハイ、いい所に来たな。精霊に教えられでもしたのか?」
魔導の徒としては大柄な方だと自覚をしていたが、そこまで悪目立ちをするともミハイエール自身は思えない。
入ってきたばかりの自分の姿にすぐさま気が付くのは、ロートンのさすがの目端の利き様と言うべきか。
そろそろ五十路に入らんとする年の頃のロートンは、『見晴台』の応対台へと向かって四半世紀が過ぎた。
生来の髪の色である焦茶に、所々に白いものが交ざる様になった。
ミハイエールは先ず、苦い笑いを返す。
極めて黒に近い色合いだったが、ロートンへと向ける緑の目はあくまでも明るい。
「街中で召喚は行ないませんよ。ロクな精霊がいませんから。魔力がもったいないですよ」
「アンタ、魔法使い、――しかも魔召士なのか?」
先客がミハイエールを見た。
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