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写真を撮るのが彼女にとって昔からの趣味だった。
蝉が騒ぐ暑い夏の日も、コタツで暖を取りたくなる冬の日も――季節を問わず彼女は写真を撮り続けている。
そんな彼女の始まりは時代遅れなインスタントカメラだった。修学旅行のお供に買ってもらって、すぐに見るもの全てを切り取り、フィルム全てを思い出に変えた。
最初は次のフィルムを買い与えていた両親も、彼女の思い出作りの早さには財布の危機を感じたようで――データの取捨選択ができるデジタルカメラを買い与えた。
やがてアルバイトができる年齢になると彼女はすぐさま働き、そして全てをカメラにつぎ込んだ。
結果として彼女の手には、凡そ女子高生には不釣り合いな一眼レフが握られている。
私服をろくに持たないから今日も制服。質の良い黒髪も適当に切られ、化粧っ気のない顔に丸メガネを乗せている。露出した足を赤くして、マフラーで包んだ口元から白んだ吐息をこぼす。
そうして世界をレンズ越しに覗き込み、今日も今日とてシャッターを切る。
パシャリ。
驚いたように彼女の視線がこちらへ向く。
聞き慣れた音も立場が違えば異質に響くのだろう。
黒瞳を困惑に染めて彼女は問うた。
「――おじさん、誰?」
レンズの向こうで見ていた彼女がこんなにも近くにいる。
今日はいつもと違う彼女を写せそうだ。
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