君と、雪の彩りと

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 A「私、雪って嫌いなの」  目の前でカメラを構える少女は僕の前でそんな言葉を口にする。  B「それでも君はここにいるね」  君はカメラを下ろして僕の方を覗き込んだ。  ほんの数十分前は、『十年ぶりの大雪』という見出しに「2年連続かよ」とツッコんでいた僕を彼女は呼び出した。  正直ものすごく迷惑。家のぬくもりを手放す羽目になった。  僕の家の玄関の先にカメラを手にした君がいた。相変わらず感情の読みにくい顔。黒い髪から覗く白い肌がやたらと眩しい君。  それから、君の後ろをついて歩いて今、ここにいる。  雪の降る川原でただでさえ寒いのに横に立つ君はかなり衝撃的な言葉を口にする。  感じていたイラつきを柔らかな言葉に包むと彼女はそれに気づく様子もなくまた口を開いた。  A「うん、寒いから雪は嫌いだよ。でもね、ほら」  君が僕らの正面を指差す。彼女の指は赤く悴んでいた。手袋をつければいいのに。  その指の先に僕の視線を乗せる。  銀世界。  そんな、使い古された言葉が僕の中に染み渡る。雪は少し大きめで、ゆっくり落ちていく。純白のそれは水の上に落ちると波の形も見せることなく溶けていく。  先に見える山さえ仄かに白さを纏っている。  A「寒いことなんか忘れちゃうくらいにキレイだよ。キレイなものを撮れるから、今が幸せかな」  そう言って君は笑う。とてもキレイに。  無表情な君にしては珍しくて。僕はほんの少し目を見張る。  それから、君はもう一度カメラを構えた。  君の夢を僕は知らない。でも、何故か知っているように思える。  君の夢、きっと彼女が直感的にキレイだと思えるものを写すこと。それが君の変わることのない夢なのだ。  そんな君に僕は共感する。  そんな君を僕は美しいと思う。  君が、そして多分僕も嫌いな雪は一瞬だけを切り取ればキレイな景色へと呼び名を変える。  その写真を見れば冬っていいなと思えるのだろう。季節と体温を感じられる。  そうやって世界を描く君がキレイだと感じるものを僕もキレイだと感じたい。  今日も君はカメラを構える。  悴んだ君の細い指、ゆっくりとシャッターを押し込んだ。  
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