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逃避行
闇が広がる丑三つ時。月明かりはこざっぱりした安宿を抜け出し逃げるように走り去る1人の男の影を映し出していた。
ーーどこまで逃げればいいのだ?
武闘家たる者敵に背を向けて逃げるのは本来情けないこととされる。しかしリュウを追っていたのは街のギャングの集団。いくら名うての武闘家といえど百戦錬磨の男達に集団でかかられては立つ瀬が無い。
逃げながらリュウは自らを恥じていた。何故こうなった?何故こうなった??
若い頃から一心不乱に格闘の鍛錬を続け村主催の武術大会で14歳で優勝したリュウは、その後村の中では文字通り無敗を誇る武闘家。村中からの期待を背負って鳴り物入りでルナパレスの中心街へとやってきた。しかしこちらに来て最初の武術大会でリュウはなんと2回戦負けを喫してしまう。しかも打撃を一切与えることができぬまま45秒でハイキックを喰らいのびてしまうという絵に描いたような完封負けだった。
そんな何年も前のことを思い出しながら逃げるリュウ。この街を抜け出せば何とか借金から逃れられるかもしれない。空は少しずつ明るさを取り戻してきている。もうすぐ夜明けだ。
この関所さえ抜けられれば……
そのとき、1人の門番がリュウの前へと立ち塞がった。
「お兄さん、夜逃げですか?」
不敵な笑みを浮かべるてそう問いかけてくる番兵に対し、リュウは身構えた。
「なぜそう言う?」
「なぜも何も、スロットマシンで作った借金で首が回らなくなって、それを返すために闇のギャング団から30万ゴールドの借金。それが利息やら何やらで膨らみに膨らんで今やその額は100万ゴールド。これでしかも夜明け前に着のみ着のままで関所を抜け出そうとしてる。これが夜逃げじゃなければ何なんだ?」
全てを見透かしたような目でそう語る番兵に対し、リュウは少し寒気を感じた。
「ああ、アンタの言う通りだ。夜逃げの何が悪い?」
リュウは動揺を抑えつつ淡々とした口調でそう言った。
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