第一章 月曜日の憂鬱

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やっと昼休みが始まり、購買にいく生徒、他の場所で食事をとりにいく生徒などで一気に教室内が騒がしくなる。 「今日は来ると思う?」 ショートカットで少し日に焼けた顔をにやにやとさせながら、風間実咲は楽しげに隣の黒髪でボブカットの少女に声をかけた。 「来るでしょ」 断言するようにわざと眼鏡をもちあげて、古川塔子は言った。 「やめてよ。もし来たら私は居ないって言ってね」 私は朝買ってきたサンドイッチを袋からごそごそと開けながらため息をついた。 そう、月曜のこの時間になると、ある人間がほぼ毎週この教室に現れるのだ。 出来れば今日は来ないで欲しい。早く帰って録り溜めたアニメが見たいのだから。 「東雲いるかぁ」 ぶっ、と同時に吹き出している友人達を無視し、私は慌てて机の下に潜った。 『居ないって言って!』 小さい声で友人達に合図したが、上からはくすくすという可愛い笑い声しか聞こえない。 足音はどんどんこちらに近づいているのに、未だ友人達の助け船は無い。 うん、世の中こんなもんだ。 「なんだ、避難訓練か?」 じっと机の下で息を潜めて体育座りをしていたら、上から覗き込むように突然顔が近くに出現し、思わずひっ!と声をあげた。 「お前、人を妖怪かなんかみたいに扱うなよ、ひでぇなぁ。  じゃ、いつものように放課後手伝い頼むな」 覗き込んだまま最後は笑顔でそういうと、足早に教室のドアへと向かっている。 私は慌てて机の下から顔を出し、その教師の背中にむかって声を上げた。 「行かない!今日は絶対行かない!用事があるのー!」 だが本人は背を向けたまま手をひらひらさせて立ち去っていった。 あぁ、相変わらず周囲の視線が痛い。 「いい加減諦めたら?」 立ったまま拳を握りしめる私に、塔子は呆れた声で言った。 「旦那が毎週二人で会いたいって言ってるんだから、奥様は当然行かないと」 おにぎりを口に運びながら、にやにやと実咲が私を見る。 「いや二人きりじゃないから。 実咲と塔子は楽しいかも知れないけど、私は迷惑以外何ものでも無いってわかってるよね?」 くすくすと笑うさっき見放した友人達を睨むと、サンドイッチを食べるため私はどすんと椅子に腰を下ろした。
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