お面の縁日

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お面の縁日

 気がつくと、僕はどこかの縁日の場に立っていた。  神社の参道みたいな石畳の両脇に、ずらりと屋台が並んでいる。  どうして僕はここにいるんだろう。ここに来る前、僕は何をしていたんだろう。  必死に記憶をたどってみるが、何一つ思い出せない。でも、目の前に広がる縁日の賑わいが意識を満たして、ここに来るまでのことなんてどうでもよくなっていった。  せっかく縁日の場にいるんだから、あちこち屋台を見て回ろう。そう思い、一歩を踏み出しかけた時、誰かが僕の肩を叩いた。  振り向くより先に、後ろから手に握らされるようにお面を渡される。  キャラクター物とかではない、犬だか猫だか狐だかはっきりしないけれど、何か動物を模したらしいお面。  よくよく見ると、縁日にいる人達はみんな何かのお面をつけている。  お面をつけることが参加条件なのだろうか。だったら僕もそれに倣わないと。  渡されたお面を身に着ける。と、さっきまでは、音は聞こえていたのにはっきりと聞き取ることができなかった、縁日にいる人達の言葉がちゃんと聞こえるようになった。  あちこちで客を店に呼び込んだり、店の物を紹介する声がする。それが僕の気分をウキウキさせるけれど、高まる気持ちを遮るように、後ろからお面を渡してきた相手が僕に話しかけてきた。 「周りの店は見ないで。声をかけられても返事はせず、必ず首を横に振って。その状態で真っ直ぐ真っ直ぐ…屋台の向こうに見えている青い提灯の所まで歩いて」  言われたことの意味が判らない。  周りはこんなに楽しそうなのに、どうして店を見てはいけないんだろう。  でも、どうしてかその言葉には従った方がいい気がして、僕は小さくうなずいた後、石畳を歩き出した。  歩いている途中、何度も屋台の中から声をかけられる。チラと窺う店の中には、おいしそうな食べ物や面白そうな玩具が並んでいるけれど、見ていきな、食べていきなという誘いを、僕は言われた通り首を振って総て断った。  それでも時には強引に、店の品物を差し出して僕の足を止めてくる人がいたけれど、僕の背後に寄り添っている誰かが、そのたびそれを断った。  でも、店の人達はそれが気に入らないらしく、僕には何もしないけれど、誘いを断る背後の誰かには、苛々して怒鳴りつけたり、時には何かを投げつけさえした。だけど僕に寄り添っている誰かは決して歯向かわず、
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