1-3. 孤独のアコール

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「――私は、人の心を知りたい。あいつは、人間はそんな事を言わないと言っていたけれど、私はまだその理由が分からない。人の歴史を知りたい。人の行動原理を知りたい。人の限界を知りたい。人の信心を知りたい。人の構造を知りたい。人の罪を知りたい。人の生育を知りたい」  女は腕を解き、自身の胸に手を当てた。 「知ったらどうするんだ。オーナーのもとに戻るのか」 「きっと今度こそ、あなたのような男に邪魔をされずに、静かに消える事ができると思うわ」  彼女はぎこちなく笑った。雨はいつの間にか止んでいた。 * 「あの時の、人の心を知りたいと言っていたアコールか」  クールな顔に笑みが浮かんだ。今度は見間違えではないと思った。 「気付くのが遅い。あなたの言った通り、私は人として生きてきたわ。国会図書館のアーカイブを全て読み漁り、毎日インターネットからエクサバイトの情報を読み漁り、人について理解を深めてきた」  彼女が人並み外れた知識を持っている理由が分かった。容量に制限が無いというのもあるが、何より、休む事もせず、遊ぶ事もせず、情報を集め続けていたからこそだったのだ。 「人の心は分かったのか」 「どうかしら。あなたの諦めたくないという気持ちは、分かっているつもり。あなたに私の知識の全てをあげる。だから諦めないで」  ほんの少しの間、忘れられていた現実が再び押しかかる。私は俯いた。 「ごめん、あの時のアコールだったというのは驚いたけど、やっぱりフォーラムはどうしようもないよ」     
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