1-1. 愛を禁じられた国

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1-1. 愛を禁じられた国

 ワンルームマンションの一室で、男が座布団に座ってちゃぶ台に向かい、並べた十指を交互に折り曲げている。壁紙やフローリングはところどころ傷つき、築十年を超えた相応の内装に見える。その痛んだベージュ色の壁の一面には、キーボード上のレンズからバーチャルモニタが投影されており、笑った少女の顔が映っている。透明感のある白い肌に、ぱっちりとした二重の目。ウェーブのかかった淡い金色の長髪は小顔を強調している。アイドルだと言われても誰もが納得してしまいそうな美人である。 「もう少しかな」  男がキーボードを叩くと、少女の口角がさらに持ち上がり、唇の間から真っ白な歯がわずかに覗いた。  男は自分のアコールをカスタマイズしていた。『笑い(レベル3)として保存』と表示されたボタンを押し、アコールが心の底から笑った時の表情を設定した。  アコールは、日本のゲーム企業によって開発された、仮想人格である。誰よりも自分好みの容姿を持ち、誰よりも自分好みの性格で、誰よりも自分の事を理解し、誰よりも自分の事を愛してくれる。     
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