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#1 セッション
「そんなに高いのないよ」
不動産屋のおっちゃんに連れていかれたのは築四十数年の木造アパートだった。高いのないよ、というのは私が提示した条件に対しての答え。駅から徒歩十分圏内。風呂トイレ別。キッチン別。エアコン付き。角部屋。和室。家賃は管理費等込みで五万円台前半。
「畳の部屋の需要ってあまりないから、だいたい五万以下だね」
ぼってりとした腹を揺すって、おっちゃんが笑う。
「ここでお願いします」
三室しかない二階の奥。最初の内見で即決したのが意外だったらしく、つぶらな目が最大限に見開かれた。
「本当にいいの。こう言っちゃなんだけど、すごく古いし下に大家さん住んでるよ」
「他にオススメありますか」
「いやぁ、どれも大差ないけど」
うっすら白髪に覆われた頭皮を撫でつけ、おっちゃんはむずがる幼児に言い聞かせるみたいな口ぶりになる。
「若い女の子なんだからフローリングとかの、もっと小綺麗なとことかさ。鍵もしっかりしてるほうがいいんじゃないの。オートロックで」
「五万くらいのやつありますか」
「……今はないね」
「じゃあ、ここでいいっす」
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