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おっちゃんと契約を交わしたのが二月の半ば。その一か月後には滞りなく引っ越しがすんだ。業者でなくレンタカーと知人頼み。かねてより大学卒業後は一切援助しないと親に言われていて、なるだけ節約したかった。なので「住んでからでも気が変わったら相談してよ」とおっちゃんに言われたけれど、そんなことするつもりもない。
家が決まれば、あとは職だ。とくにやりたいこともなく労働意欲も乏しかったので比較的のんきに構えていたら、就活らしいこともせず現在に至ってしまった。
さしあたり、すみやかに働き口を決めるなら社員や派遣よりもバイトだろう。資格や経験が必要なさげな時給千円以上で探して、デパ地下のスタッフに採用された。スイーツじゃなくデリ系にしたのは、あまった惣菜を貰えるかもという下心だ。
そうして始まった新生活。まもなく、あいつが転がりこんできた。付き合って二年めの同い年の彼氏。近くに実家があるくせに、こっちのほうが二駅分だけ職場に近いというのが理由らしい。
六畳一間の単身者用物件に二人分の荷物とくれば、もので埋め尽くされるのは必至。クローゼットがわりの押入れはパンパン。布団をしまう余裕もなく万年床。その真横にはテーブル。起きてすぐ飯れる合理的なレイアウトだ。
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