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自分に似てしまったのかもしれない、と浩之は考える。元々多忙な義兄に加えて、本格的に復職した姉が家を空けることが多くなった。寂しい思いをしているに違いないが、小さな甥は大抵聞き分けが良く、それどころか一人遊びが好きで、どこか職人気質だった。
きょろきょろとあたりを見渡している葵に向かって、浩之は手を上げた。
「ワンちゃん、寝てるの?」
近づいてきた葵が、おそるおそるといった様子で浩之に小声で尋ねる。
犬の反応は、浩之のときとは全く違った。素早く上半身を起こし、すんすんと鼻をひくつかせる。大きな目で葵をじっと見つめながら、ふわふわの尻尾をゆらりと動かしている。
「タロウ、脅かしたらダメだよ」
あまりにも静かだったせいで、浩之は隣に男がいることを忘れかけていた。タロウと呼ばれた犬は背を撫でられ、満足気に首を伸ばす。
「アオも触っていい?」
葵の言葉に男は笑ってうなずいた。
小さな子どもと大きな犬というのは、どうやら仲間意識が生まれやすいらしい。視線の高さが近いからだろうか。タロウは葵のことを、すでに自分の弟だとでも思っているように見える。
初めは恐々と撫でているだけだったはずが、葵はもふもふと柔らかな首筋に抱きついて楽しげな声を上げていた。
「すみません、お邪魔してしまって」
浩之は、本を閉じて和やかな光景を眺めている男に声をかけた。
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