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「別れの歌というよりも、古くからの友と、過ぎし日々を懐かしみながら変わらない友情の酒を酌み交わす、というような歌詞なんだそうです」
「そうなんですか」
「ええ。そう知ってからは、この曲を聴いても寂しくならなくなった気がします」
まるで秘密を打ち明けているように話しながら、木ノ下がひっそりとはにかむ。
「ヒロー?」
葵が正面から浩之の顔を覗きこんでいた。車の絵が描かれた赤い服が、すっかり砂まみれになっている。
「ああ……もう帰らないとな」
「うん! ごはん!」
木ノ下が隣でふふっと笑いをこぼした。
「葵くんがたくさん遊んでくれたから、タロウもお腹が空いたみたいだよ」
「タロウもごはん食べるの?」
「そうだよ。お家に帰って、いっぱい食べさせてあげないと」
ふうん、と葵はつぶやき、「また遊べる?」と不安げに尋ねた。
「休日は、大体同じ時間にタロウと散歩をしていますが……」
木ノ下が困ったな、というように浩之と葵を交互に見た。
「もし差支えなければ」と、言葉が自然と口をついて出てくる。
「連絡先を教えていただけますか。葵はいつも俺の家にいるわけではないので、来るかもしれないと気を遣わせてしまうのも悪いですし……」
浩之は自分でも驚いていた。ついさっき出逢ったばかりで、よく知りもしない男に連絡先を訊かれるなんて、気味が悪いと思うに違いない。
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