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「いや。僕も今日で四人だ。感づいてるだろうけど、次々襲われ過ぎてる気がしてね……それにさ、今日のひとにはこんなことを言われたんだ。『自分は殺し屋で、仕事としてお前を殺しにきた』ってさ」
「はあ? マジで?」
「マジだよ。どうも、僕らは殺しの標的として狙われてるみたいだ」
へえ、と意外そうな顔はしつつ、猫はそれ以上気にも留めずにさらりと言ってのけた。
「面倒だし迷惑ではあるけど、ああいうのなら次々どころか十人いっぺんに来てもだいじょぶだろ」
「言うね。……ま、そういうことだから、念のため注意しておいて」
困ったように笑みを浮かべ、犬は一応ここで話題を切り上げた。釈然としていないのだろう気分を紛らわせるための話題を猫に振る。
「それにしても、葬儀屋さんは仕事が速いよね。殺し屋っていう仕事柄、やっぱり後始末は重要だからね」
「そーそー。あといっつも思うんだけど、あのひとどうやって仕事してんだろうな。葬儀屋が遺体運んだり現場の掃除したりするのって、びっくりするぐらい想像できないんだけど」
「あー、分かる。かといって、ひとを使ってるのも見たことないし」
「謎だよね。今度、料金の代わりに人手で手を打ってもらう?」
「人手不足で困ってはいなさそうだけどね。視野に入れておこうか」
他愛ない話題と和やかな会話はのんびりと続く。窓の外でしとしとと降る雨は、霧雨程度になっていた。夜には止み、明日は晴れるだろう。
「天気、良くなるといいねー」
窓を眺めていた犬に向けたのか、猫が歌うように呟いた。犬は猫を振り返り、笑みを見せる。
「猫は雨も好きなんだろ?」
「もちろん晴れの日も好きだよ。犬が雨を好きじゃないから、晴れるといいって言ったんだ」
「それはどうも。まあ、嫌いなわけじゃないんだけどね、好きにはなれない。猫は嫌いな天気はないのかい?」
「寒いのも暑いのも嫌いだな。あ、でも雪は好き」
「わがままだね」
猫はにっこりと笑った。
「うん」
【2】了
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