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 猫が住処に帰ってきたのは、小一時間ほど経ってからだった。 「ただ~いまっと」 「おかえり。うわ」  デスクで犬が声をあげる。 「分かってはいたけど、これはまたびしょ濡れだね。見てるだけで寒い」 「さすがに冷えたんで帰ってきた。シャワー浴びてくる」  沼から這い上がってきたような有り様の猫は風呂場へ直行する。しばらくして聞こえてきた水音に、犬は改めて、理解不能な猫の行動に呆れた。出てきたら紅茶でも淹れてやろうと心を配りつつ、猫が散歩している間に集めた資料をまとめてプリントアウトする。プリンターの音に紛れて風呂場からくしゃみが聞こえた気がしたが、気のせいということにしておいた。これで猫が風邪などひけば目も当てられない。コンビを組んでから猫が体調を崩すことはほとんどなかったので、大丈夫ではあろうが。  犬がサポート役、猫が実行役という分担はコンビ結成から不動だ。猫の実行役としての責任感は非常に強い。冷えた身体を温めるためにシャワーを浴びる、という甲斐性を見せるのも、その辺りによるところだろう。  それなら今日は雨の散歩も止せばよかったのに、と、犬は思っても口に出さない。  十五分ほどで猫が出てきた。犬が紅茶を淹れてやると、嬉しそうに受け取る。 「髪も乾かしなよ」 「はいはい。あ、そういえば葬儀屋に会ったよ。依頼してたんだってね」  デスクに戻りつつ、犬はうなずく。 「ああ、そうそう。例の野良さんの遺体の処理をお願いしたんだ」 「もう片づいてたよ~」  ソファに落ち着き、さっそく紅茶にありつく猫を眺めながら、犬はゆっくりと口を開いた。切り出し方に悩んでいるらしく、歯切れが悪い。 「あのさ……、その話なんだけど」 「ん?」  猫はカップに口をつけたまま犬を見上げる。 「猫は何人やった?」 「四人だね。……なんでまたそんなこと聞くのさ?」  間髪容れずに答え、猫は訝しげに相棒に尋ねた。犬は肩をすくめる。
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