2人が本棚に入れています
本棚に追加
*
「戻ってきたの?」
「そりゃ戻るだろ。おまえが俺撮ってんの見たら」
ーーー
ファインダーの端いっぱいまで広がるのは、田畑を覆った白雪。
ぼやけがちな雪景色を、真横にのびた線路が黒と直線のアクセントでひきしめる。
列車は山あいへと向かう。
省吾が離れていく。
走っても追いつけない。
でも望遠カメラなら一瞬で彼をつかまえる。
三津はその一瞬の高鳴りを仕舞っておきたくて、シャッターを切った。
「目が合ったね」
「合ってねぇ」
省吾の息があがっている。
「俺に見えたのはそのごっついカメラ! っから戻ってきたんだ。あーくそ、横っ腹いてぇ」
「向こうに行ったらもっと死ぬほど走るんでしょうに」
三津がはぶいた距離を、省吾は馬鹿正直に自分の足でえんえん、えいこらと走ってきた。
時間をかけて、何も惜しまずに。
「バカ」
「好きって言えよ」
省吾の荒い息づかいと火照りが三津にうつる。
「俺は好きだ」
「バカね」
俺も、って言わない省吾。
三津は笑った。
「荷物どうしたの?」
最初のコメントを投稿しよう!