紅雲と涙~俯きながら、心で見上げた空~

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できないと分かっていても、否、できないと分かっているからこそ、そんな無謀さえ可能な気がしてくる。 夕焼けの世界に一人、いつまでも大切なものだけ心に置きながら、佇んでいたい。 ここまで夕暮れに魅了されるワケを、深く考えたことはなかった。 が、すぐに一つの答えに行きついた。 もっとも、それは数ある可能性の一つであり、他にもワケがあることを否定するものでは決してない。 ーー焦がれるものとの距離が一番近い時間なのかもしれない。 日常を生きていると、押し込まなければならない想いがたくさんある。 しかし、この時間帯にだけは全ての想いや考えが、許されるような気がするーー。 生者の偽りを全て引き剥がしてしまうような夕空。 紅雲の恐るべき一面、それでいてまっすぐすぎる一面を垣間見たような気がして、気づきの冷えがやわらぐように、外套の襟を両の手で立てた。
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