紅雲と涙~俯きながら、心で見上げた空~

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そんな答えさえ、かつては心の奥の闇で飲み込んでしまったものだ。 でも、今になってじわじわと効いてきている。 今なら、信じられる気がする。 一日の終わりを告げる夕方も、晴空の明日を約束する希望なのだと。 頭でじゃなく、身体から吠えることができる気がする。 明日の晴天を、あなたと共に迎えたいと。 あなたは、消えたりなんかしていない。 それは、真実であって事実ではないと逢魔ヶ時にだけ聞こえる声が、はっきりとささやいてくる。 この時間にしか、聞くことのできない声。 そういう声があるということを、経験則でこの体躯は理解していた。 時々、飲まれそうになるほどのインスピレーションが襲いかかる。 そんな恐ろしさと不可思議さが、この時間帯にはある。 夕焼け空を見上げていると、不意にこんなことを思うことがある。 それは、涙は流すものではなく、何かが、流させているものなんじゃないかって。 夕暮れが涙を引き出そうとしてくるたびに、そんな感覚が確かなものになっていく。 誰かが涙を欲しがっている。 それなら、よろこんで涙をあげよう。 意図的に誰にも見られないようにしながら、失われた生命全てに涙を捧げる。心の中で、またどこかで必ず会おうと約束しながら。 また、どこかで必ず会えると、確信しながら。 誰かがこれを出会いと別れと呼ぶのなら。 別れと出会いと俺は呼びたい。 人はきっと、もう一度会うために、涙を流すのだから。 人は、もう一度出会うために、続きの生命を、生きるのだから。 いっそ時間ごと、止めてしまおうか。 そんな考えさえ簡単に頭をもたげてくる。
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