夕暮れ

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「そこだよ」  皆川が腫れぼったい目を開いた。それから、子竜を人目につかない倉の影に誘った。  静かな場所で、周囲を気にするように声を潜めていう。 「俺は、下手人が誰か、実はもう見当がついてるんじゃねえかと踏んでる」 「どういうことです?」 「下手人は、俺たち下級役人には手を出せない人物。それが分かってるから、幕府は早々に町方を捜査から外した、ってことだ」 「まさか……、では幕府は、下手人が誰か分かっていながら、今まで捕らえずに野放しにしていると?」 「その可能性は、あるな」  神妙に頷く皆川へ、驚愕の色を浮かべる子竜が、 「しかし下手人が、皆川さんがいうような人間ならば、目付が動いてしかるべきでは?」  〔目付〕とは、武士を取り締まる役職のことである。子竜たち町方が町人を取り締まるのに対し、目付はその役職に応じた格の武士を取り締まる。例えば、〔徒目付〕という役職ならば、子竜や皆川のような同心など、下級の武士を取り締まるのが仕事である。  〔大目付〕ともなれば、直属の上司に当たる老中までをも取り締まる権限が与えられている。  現代の警察組織における、監察官のようなものであろうか。     
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