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気配を感じ振り返る。 風のごとくその場を去った後ろ姿は、確かに彼で。 ・・・来ていたのか、街に。 腕に抱いていた女をその場に横たえる。 意識を失い穏やかな呼吸を繰り返す体に落としていたショールを掛け、血の滲む首筋に掌をあてた。 ゆっくりと撫で上げれば、そこはもう傷跡すら残らない。 以前は気にも止めなかった吸血痕、それを綺麗に消す。 『あんたの所有印だな、これ』 己の首筋にソッと触れながら、嬉しそうにそう呟いた彼の言葉が忘れられない。 あの日から『食事』をした後にはこうして傷を消すようになった。 所有印だと喜ぶ彼が可愛く思えたとか、そんなことは絶対言うつもりはないけれど。 全く・・・らしくもない。 それにしても 走り去った方向に視線を向ける。 自分の姿を見つけていながら、声すら掛けずに去るのは初めてのことで。 逃げるように・・・いや、確実に逃げたのであろう彼に若干の苛立ちを感じた。 正直言って・・・面白くない。 いつも嬉しそうに尻尾を振って近づいて来るくせに。 こちらの気持ちを揺さぶっておきながら、今さら逃げるなんて許さない。 瞳を閉じ意識を集中させる。 間を置かずして夜空を覆うほどの蝙蝠がキィキィと飛び交い、辺りを異様な雰囲気に包み込む。 『探せ』 端的な命令を下せば、一斉に霧散する蝙蝠。 それを確認し足を踏み出す。 もう街に用はない。 久しぶりの食事はそこそこの味で、それなりに満足した。 ・・・あとは彼の居所を見つければ良い。 ウォーー・・・・・・ン・・・ 遠くから狼の遠吠えが聴こえる。 人々が恐れるであろうその遠吠えに、フッと笑いが溢れた。 どこに居ても必ず見付けられる。 蝙蝠からの波長を感じとりながら、音もなく闇に身を溶け込ませていったー。
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