66人が本棚に入れています
本棚に追加
「だから!嫌だったんだよ!!喰うなら俺にしろよ!」
足を凪ぎ払われ視界がグルッと反転する。
身体に走る衝撃。
そして彼の口から発せられた言葉に、少なからず驚かされた。
「そりゃ・・・俺みたいな男なんかより、人間の女のほうが旨いのかもしれないけど。けど俺の血だって、あんたいつも旨そうに飲むじゃんか。腹が減ったんなら俺のところに来いよ!」
早口でそう告げるとクシャッと顔を歪める。
どこか苦しそうなその表情に、先程まで感じていた苛立ちが小さくなっていく。
「だいたい何だよ、何日も姿を見せないで。俺、待ってたのに。あんたが現れるのを毎晩バカみたいに。なのにあんな・・・くそっ!」
「・・・っ、ん・・・」
唇に熱い感触。
乱暴に重なるそれが唇を噛む。
その仕草に僅かに口を開けば直ぐ様差し込まれる舌。
濡れた舌が蠢き、舌の根に絡む。
チュクッ・・・
水音が響き、彼の口に吸い込まれていく。
つまりこの狼は、僕の『食事』している光景に嫉妬したということか・・・
「っ!」
好き勝手に動く舌を軽く噛んでみる。
驚いたのか一瞬動きを止めたかと思えば、また執拗に絡まるそれ。
・・・ほんと、バカな狼だな。
ただの食事に妬いて、寂しがって。
でもこんな風に真っ直ぐに気持ちをぶつけられるのは・・・正直、悪くない。
一頻り口腔内を味わうと、チュッ・・・と音を響かせ離れていく唇。
どちらのものともつかない唾液が糸を引き、プツリと切れた。
最初のコメントを投稿しよう!