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柔らかい毛並みを撫でながら夜空を見上げれば月が静かに輝いていて。
「...........」
ゆっくりと瞳を閉じ、耳を済ます。
虫の音
木々をざわめかせる風のそよぎ
生き物の息遣い
それらに混ざってバサリ...と空気が揺れた。
「...やっと来た。」
ニヤリと笑って振り返れば、闇に溶け込むように佇む男の姿。
「待ち合わせていた訳じゃないだろう?」
余裕そうに微笑む男に手を差し出す。
ゆっくりと近づきその手を掴むと、力強く引っ張られた。
「なら何で来たんだよ。」
「...さあね、何でだろう。」
勢いのまま身体を寄せ首に腕を回した。
弛く腰に絡まる長い腕にホッと息を吐く。
強く抱き締め返してくれる訳じゃない。
けれど、引き剥がされる訳でもない。
この距離感がもどかしくも...心地よい。
「...ほら、吸えよ。」
「情緒ないな。」
挑発するように首筋を晒せば、クスクスと笑いながら返ってくる声。
そうして吸い付いてくるその小さな頭をゆっくりと撫でる。
「ん...」
ガリッと首筋に走る僅かな痛みに声をあげた。
夜と闇が大人しく見つめる。
本能で分かるのだろう...闇の中で生きる男の絶対的な強さが。
様々な種族が存在する世界で頂点に君臨する一族。
この男の中で、かけがえのない存在になれる日がいつか来れば良い...
そんな想いを込めて、狼とは違うさらりとした黒髪に指を絡めたー。
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