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店先から酒瓶を数本抱えて出る。
店主の目を盗んでかっぱらった酒。
様々な種類のアルコールは、いつも自分を程よく酔わせてくれる。
「・・・ん?」
夜と闇が待つ森へ帰ろうとして、クンッと鼻を鳴らした。
裏通りへと続く暗く細い道の向こうから、覚えのある香りがする。
思わず足を止め、その道に視線を向ける。
暗闇の中でもハッキリと見える、その姿に心臓が跳ねた。
街に下りてたのか。
黒い上下の衣服に身を包み、自分と同じように人間のふりをして佇む男。
見間違えるはずのない愛しい吸血鬼の姿に、顔がフニャッと歪むのが自分でも分かる。
「・・・あ、」
喜びからすぐに声をかけようとして、言葉が喉で詰まった。
男の腕の中には華奢な女性の姿。
品の良いドレスに豪華な宝石、シルクのショールが腕から滑り足元へとスルリと落ちる。
娼婦とは違う、どこかの金持ちの娘だろうか。
まだ若いその女性に微笑みかける男の瞳が妖しく光る。
女性はうっとりと男を見上げ、やがて魂が抜き取られたかのように体から力が抜けていった。
その首筋にゆっくりと顔を埋める男。
チュッ・・・
小さな吸血音がやけに大きく聞こえた。
「・・・っ、」
なんだ、これ。
胸が痛い。
暗闇の向こうで行われる『食事』風景に、ズキッと心臓が締め付けられる。
酒瓶を抱えた腕に力が籠る。
『嫌だ』
頭の中をその言葉が乱打する。
「・・・・・・・・」
無言で踵を返す。
早くこの場を去りたい。
あんな光景、見たくなんかない。
パキッ!
足元に落ちていた木の枝を踏んでしまい小さな音をたてる。
『しまった!』と感じたのと、自分の足が地を蹴ったのは同時だったー。
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