0人が本棚に入れています
本棚に追加
見てはいけない電話口
「あっくん! 私のスカートの公衆電話に無理矢理テレフォンカードを入れないで」
花和高一年の秋。
美術部の帰り、あっくんは、お母さんに塾の話があるからと、ががんで、急に私のスカートのポケットについたテレフォンナンバーを押し始めた。
スカートの中から引き出した受話器を持ったまま茜の空を見上げる。
雲が流れて、私の頬を染めたり曇らせたりする。
「上に誰かいるの? じいーっと空の方を見ていて」
「んー」
わ、わわわ。
まるでセキセイインコのように甘いトーンで、電話口に何言ってもダメだからね。
「いるんだよ。春原美々のドッペルゲンガーだ」
ドッペルゲンガーなんか、河原の道に見える訳ないじゃない。
あっくんは、きっとふざけている。
「美々のおさげがよく映っている。しかし、本来はうさぎだったらしい。雲の様子が変わるにつれ、うちにいるホーランドロップイヤーの姫ちゃんに似て来た」
そう言いながら、三井敦毅が、真顔になった。
「私、どう見ても一人だもん。あっくんは、変態なの」
最初のコメントを投稿しよう!