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「美々はいつも天然だけど、ドッペルゲンガー位知っていたか。死の直前に自分で見る場合もあるらしい。美々は、見ない方がいい」
「え? 山で見るのと違うの?」
あっくんを見ると、こくりと頷いた。
「死ぬ前に見るとも言われているんだ。俺は、美々に死んで欲しくない。塾ではなくて、病院へ行こう」
「あっくんのお母さんの病院に?」
そこは、三井診療所とうたっているけれども、結構、心の病んだ患者さんも多いと聞く。
「うちは、心療内科もあるから。一緒においでよ、美々」
「でも、私、元気だよ。おかしい所なんてないから。食欲もあって、今日も元気にお弁当を食べましたよ」
あっくんは、私の背に茜の空が広がっているのを見ている。
顔やブレザーにちらりちらりと空の色が映える。
私は、ふっと強く吹いた風からスカートを押さえた。
「やっぱ、母さんに電話する――」
あっくんがテレフォンナンバーをプッシュし始めた時だった。
目をひんむいて、口はあんぐりとし、かたく冷たくなってしまった。
初めて見る様子に、とまどった。
「どうしたの? あっくん! あっくん!」
肩を掴んで揺らしても反応がなかった。
私は、背後からきらきらとした眩しさに絞殺されそうになる。
ぞくぞくとしたものを感じ、受話器を自分のスカートに戻す。
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