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その手が汗でじっとりと濡れていた。
ゆっくりと後ろを振り向く。
空を見上げると、あっくんの笑顔が大空一杯に広がっていた。
「きゃああ!」
驚いた途端に、戻したはずの電話が一つ鳴った。
濡れた手で落さないようにそろりと受けることにする。
この電話を知っているのは、あっくんだけなのに。
誰なの?
「敦毅? 母さんよ。塾の時間なの。早く帰っていらっしゃい」
……今更、ドッペルゲンガーの話なんてできない。
「敦毅? お返事は?」
「あー!」
私は、頭が混線して、受話器を引きちぎってしまった。
痛い……。
涙が滲み出る。
大空の雲が隠してしまった笑顔が見られないと思うと、唇を噛んでいた。
受話器をとうとうと流れる川に向かって放り投げたら、護岸してある所にぶち当たって、機械的な音をあげていた。
『美々。聞こえるか』
「あっくん! 目が覚めたの?」
振り向くとあっくんの姿がなかった。
『空を見上げるな。いいか。見上げるな』
「分かったわ」
段々と日も暮れていく。
夜空になっても危ないということだろう。
私は、俯いて帰った。
一戸建ての黄色い屋根の家についた。
「ただいま。今日は、遅くなりました」
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