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「いいのよ。美々さん。今日はお客様がいらっしゃっているのよ。ご挨拶して」
応接間をノックする。
「お邪魔しております」
紫でコーディネートしており、上品にティーカップを置く。
「あっくんのお母さん……」
何て言ったらいいのだろう。
ドッペルゲンガーも電話の話も何もかも無茶苦茶だ。
子どもがいなくなるなんて、考えられないだろう。
「ごめんなさい」
私は、それだけ言うと、ばたばたと自室に入ってしまった。
「はあっ。はあっ」
頭よ、冷静になって考えるんだ。
どうして、大切なあっくんが犠牲になるの?
「ごほっ。ごほっ。換気しないと」
私は、カーテンを開け、夜空から空気を一杯に吸い込んだ。
『――美々、キミは、まだ来るのが早いよ』
その声は、もう遅かった。
私の体が、ゆらりととけて、机にうつ伏せになっている自分を見つめている。
幽体離脱ってこれかと思った。
『一人で、心細かったでしょう? あっくんこそ』
向こうへ手を差し伸べる。
も、もうちょい。
後ろの満月が綺麗だ。
と、届いたー。
光背のような満月が美しくシルエットを作ってくれた。
あっくんと手を繋いで、見上げるなと言われた大空を星々の間を縫って泳ぐ。
明日には、どうなるのだろう。
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