プロローグ

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 _____神絵師。誰かが彼のことをそう呼んだ。  絵に物語があるような表現力に、誰にも真似できない突出した技術。  書籍の挿絵や、歌手のCDのジャケットなども担当し、彼にイラストを描いてもらえれば軽く有名になれるだとか。  彼の名は、水瀬(みなせ)旭陽(あさひ)。女のような名前だが、その見た目は男だ。  男なのに女のような綺麗さがある。百七十二センチと平均的な身長ではあるが、スタイルが良いため低くは見えない。  漆黒の濡れた瞳に、艶がある漆黒の長めの髪。スッと通った鼻筋と形がいいくちびるは男でも誑かし、時に凶器となる。  温厚な性格と聞き取りやすい美声で人気を博している_________  表面上は。  実際の彼の性格は、こうだ。 「くそ、なんだよあいつ……ありえねえ。どんだけ要求があんだよ。こっちにも限界があるんだっつーの……!」  口が悪く、笑みは一切浮かべない。声のトーンは低く、それがどこか色気を溢れさせていた。  仕事をする時の彼と私生活での彼の態度は全く違う。  要するに『猫かぶり』をしている。  魂胆はこうだ。  愛想よくニコニコしてりゃあ俺のイメージもよくなるだろ。
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