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「……もちろんです」
シュカは出来る限りの慈悲深い笑みを浮かべました。しかし、声は上ずっていたに違いありません。
「ありがとう。では、お邪魔するよ」
「どうぞ」
『幸せの青い鳥』はずぶ濡れでした。戸口の灯りに照らされて、羽の上をすべる雫は宝石のよう。羽の先が微かに震え、目映い光の粒が零れ落ちていきました。
(いけない。寒いのだわ)
シュカは大慌てでクロゼットをひっかきまわし、ボロの中から一番まともなタオルを見つけ出しました。
彼に触れることが許されるのでしょうか。しかし、一刻も早く雫を拭わなければますます凍えてしまいます。シュカは恐る恐る、『幸せの青い鳥』の肩に手を添えてみましたが、『幸せの青い鳥』は咎めません。ホッと息をつき、頭から順に滴る水を拭っていきました。
やはり、目を引くのはアルカ―ディアの羽根です。間近に見るとうっすらと光を放っているのでは、と思うほど。
「綺麗……」
思わずため息を漏らしてしまいました。
「あ、あなたは『幸せの青い鳥』なの?」
「そう呼ぶ人もいるね」
「私、ほんとに小鳥だと思ってた」
「そうさ、私は小鳥だった。だけど、『願いを叶えたい』と、強く思ったらこの姿になったんだ。君、名前は?」
「私、シュカです」
「親切なシュカ。私は追われているんだ。匿ってくれたらお礼に羽を一片差し上げよう」
『幸せの青い鳥』は吸い込まれそうな青い目をしています。シュカはまるで魔法にでもかけられたように、幸福な気持ちになりました。
(この羽根が私の物に――)
そっと触れた羽根は見れば見るほど、美しく、一つと言わずいくらでも、シュカが大切にしている綺麗な空き箱いっぱいに詰め込みたいと思いました。
その強い気持ちはまるで呪いのようで、シュカは自分が怖ろしくなりました。
我欲のために彼を助けるのではないと誓ったばかりです。パッとは根から手を放し、シュカはまた笑顔を作りました。
「何も頂かなくてもお助けしますわ」
「君はなんて心が美しいんだ。いいや、それでは私の気が収まらない。明日、羽が全て乾いたら受け取ってくれるかい?」
「……こんな素敵な羽を頂けるなんて、夢みたいです」
シュカは言葉の通り一瞬で夢心地になりました。体の内側から暖かな幸せが次々と溢れて来ます。抗いようのない気持ちの高ぶりは少し怖いくらい。今にも喜びに崩れ落ちそうになるのです。
(これは『幸せの青い鳥』の力なの? 私、なぜだか嬉しくて仕方ないわ)
やはり、気をしっかり持たなければなりません。噂は本当でした。
今、町中の人々が血眼になって『幸せの青い鳥』探しています。この幸福を手に入れるべく、皆、躍起になっているのです。
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