16人が本棚に入れています
本棚に追加
チルチルとミチル
チルチルとミチルは二人の従者と共に『青い鳥』を探し、ブランシュの街を彷徨っていました。
『青い鳥』が姿を消してからほんの数日、まだそれほど遠くへは行っていないはず。なぜなら『青い鳥』はもう飛べないのです。
「霧が出てきたじゃない。アビゲイルは遅いわね。エドワードはどう? もう会ったの?」
チルチルが踵を鳴らしながら早口で言いました。
「まだだよ。僕もここで落ち合う約束だ」
ミチルは落ち着いて答えました。そして一息、ため息を吐くと、チルチルから顔を背け、ゆっくりと話し始めました。
「ねえ……チルチル。『青い鳥』のことはもう放っておいたらどうだろう。今やリッパー家は僕たちしかいないんだ。もう、彼がどこに行ったっていいじゃないか」
「まだ駄目よ。私だって『青い鳥』なんてどうでもいいわ。鳥はどこへ行ったっていいけど、父さんや母さん、兄さん姉さんの事は? 諦めろっていうの? そんなの嫌よ! 私は絶対!」
「違うよ。僕はもう……解放されたいだけだ」
「だから何度も言ってるでしょ? リッパー家は私が継ぐわ。あなたは自由におやりなさいな、ミチル。ただし、あいつを捕まえてからよ」
ミチルは再びため息を吐いた。
「いや。君がまだ続ける気なら……一緒にいるよ」
ミチルはきれいに整えられているチルチルの金の巻き毛を撫で、その髪にキスをしました。
「チルチル様、ミチル様。お待たせして申し訳ありません」
霧の中から長身の女性が現れました。彼女は猫の耳としっぽを持つ、猫の獣人です。獣人を従えているところから、いかにリッパー家が名家であるのか伺い知れます。
そこへ一人の男性も現れました。彼女より少しだけ背が低く、ぴんと立った黒い耳と同じく黒い房の大きなしっぽのある犬の獣人なのです。
彼ら獣人はとても希少な優秀な種族、大人びていても、まだまだ未熟なリッパー家の末っ子たちですから、大きな手助けになっていることでしょう。
「あら、二人とも一緒だったのね。それで、どう? 『青い鳥』は見つかった?」
「近付いていると思います。匂うあたりを二人で探りましたが……すいません、こいつ、犬の癖に役立たずで。場所はまでは特定できませんでした」
「申し訳ございません、お嬢様。中央広場に大きなパン屋がありまして……パンの匂いが辺りに立ち込めていて鼻が利かないのです」
「いいのよ。仕方ないじゃない。こうなったら足で探しましょ、足で」
二人の従者はすっかり耳を垂れ下げていますが、チルチルは笑顔で肩をすくめて見せました。
「二人共ご苦労様。今日はもう休もう」
ミチルが二人にねぎらいの言葉をかけると、少し大きめな犬のしっぼがふさふさと揺れました。
「申し訳ございませんでした。ご主人さま」
「いいんだよ、エドワード。僕にだって分かるくらい、パンのいい匂いがしていたもの」
猫の方は気にする素振りも無く、するりとチルチルにすり寄ってきました。
「そちらはどうでした? 魔法使いは現れましたか?」
「ええ。宿で話すわ。行きましょ」
最初のコメントを投稿しよう!