サマータイム

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 八階の事務所の窓から往来を眺める。雨が降っているからだろうか、往来にはいつもより人が少ない。真夏であるためじめじめしている。有名な繁華街の駅前にあるこのビルの前の通りは、普段はだいたい人で溢れかえっている。人混みが苦手な私にとっては、あまり好きな場所ではない。そのくせ、この会社にはもう二十年近く勤めているのだけれど。 「佐和子室長、次の企画なのですけれど・・・。」  部下の声に振り返る。ああ、仕事中なのだ。この『佐和子室長』という呼び方はあまり好きではない。他の室長は皆、苗字で呼ばれている。私だけが。室長級で唯一の女性だからなのだろうけれど。親しみを込めて呼んでいるつもりなのかもしれないけれど、この古臭い名前は個人的には好きではない。今の若い子のキラキラネームに眉を顰める大人は多いけれど、私はこっそり可愛いなとか思っていたりする。  熱心にプレゼンする部下の声。綺麗にまとめられた資料。女性向けのダイエットドリンクの販売戦略について語られる。有名ではないけれど一応総合商社であるこの会社の第二営業戦略室には様々な種類の商品を取り扱っていて、室長である私ですらこんな商品あったの?など思うことも多い。この室で扱う諸品は主に食品やドリンク系が多く、女性をターゲットにしている。そのためここの室長はだいたい女性である。見積もりや戦略性の甘さを一通り議論しあった後、細かな修正をした後再度提出するようにと伝えた。  私がいっぱしの上司ぶることができるようになったのは、すべてあの人のおかげである。
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