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パンケーキを堪能した後、彼女はまだお腹、入るよねと私に言った。もちろんと言うと、ほほ笑んだ。この街にはまだ美味しいものがいっぱいあるよと彼女は言う。
大判焼き、コーヒー、唐揚げ、ケバフ・・・二人でさんざん食べ歩いた。彼女のおすすめはだいたい当たりだった。舌が肥えているのか、感性が鋭いのか。気がつけば夕方になっていた。
夕焼け空を二人で見上げる。空なんてゆっくり眺めたのも久しぶりだった。赤い夕陽に雲がたなびいている。カラスの声が街に響く。ビルの隙間から垣間見える都会の空は、そんなに美しくもないのだけれど。
なんだか、妙にほっとした。
あの食べ歩きの日から、別に私の日常が劇的に変わったわけではない。相変わらず、仕事は失敗だらけだったし、欝々とした毎日に変わりはない。それでも、ほんの少し、変化はあった。彼女と食べ歩きした店の話をぽつぽつと職場で話し出したら、上司や先輩が興味を持ってくれた。こないだ教えてくれたお店、行ったよ、美味しかった、感性鋭いねなどの会話が少しずつできるようになった。
雑談に乗っかる形で相談もできるようになった。少しずつ、失敗は減っていった。次第に勤務時間は苦痛ではなくなっていった。
彼女はある日突然、退職した。他にやりたいことができたらしい。あの日以降、彼女は私を誘うことはなかった。どうしてあの日、私を誘ったのかはわからない。何となく聞きづらかった。心を閉ざしていく私に見かねてのことだったのかっもしれない。
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