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二 『根来忍法隠皮』
偶然は二度続いた。
──前日の一件で、日本の警視庁が忍者組織を抱えている事に確信を持ったイワトーノフは、更なる情報を求めて、新宿を離れることにした。
向かった先は、日本国内に於いて、外国人が歩いていても、まるで違和感のない街のひとつ。
つまり、悪さをしそうな外国人が身を隠すのにも打って付けの街、秋葉原だ。
その電化街を、観光でもするフリをしながら、イワトーノフは歩き回った。
そうしてスパイの嗅覚を頼りに奥へ奥へと進んで行ったまでは良かったのだが、やがてどうにも入り組んだ路地に入り込んでしまい、いつの間にか自分が何処にいるのやら、迷子に近い状態になってしまった。
仕方なく近くにあった店、これは一体何の部品を扱っているのやら、必要のない人間にはさっぱり分からないような、かなりマニアックな『何か』を売っている小さな店に足を踏み入れたイワトーノフは、だから店に入った本来の目的も忘れて、素直に尋ねてみずにはいられなかった。
「これは何に使う物ですか?」
しかし店員は、そんな無知な外国人を鼻で笑い、無愛想に接した。
そんなことも知らないで、うちの店に入って来るんじゃねぇよ、とでも言いたげな、かなり無礼な態度である。
無論、イワトーノフは憤慨したが、表情には出さず、すぐに退散しようと店を出た。
だが、この時イワトーノフは閃いたのだ。今の店員の声には聞き覚えがあると──。
あれは間違いなく、昨夜、新宿で朝鮮系女工作員に指令を出していた男の声。
あの時は、顔や姿ははっきりと見えなかったが、スパイ業で鍛えた自分の耳は、一度聞いた声を決して忘れはしない。
そこでイワトーノフは、この男をしばらく観察してみることにした。無論、店の外から、目立たぬ場所に身を隠して。
そして間もなく、イワトーノフは、またしても幸運に巡り会ったのだ。
観光客らしき出で立ちで、ぶらりと店に入って行った長身の白人男性は、だから最初、イワトーノフと同様に道にでも迷ってしまったのかと思えた。
しかし彼は、ニッと笑みを浮かべたかと思うと、あの生意気な店員に向かって言ったのだ。まるで合い言葉のように。
「ここに来れば、国家機密も盗聴できる秘密道具が手に入ると聞いたんだが──」
これに対し、店員はギロと鋭い眼になって返した。
「おたくが元イギリスの諜報員か?」
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