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「わしも、もういい歳じゃ。あんまり後回しにされ続けてると、ふて寝したまま永遠に起きなくなるぞ」
「では、今回の仕事が終わりましたら改めて時間を作ります」
「約束じゃ、なんとか生きてる内に頼むぞ」
「必ず──」
少々センチな気分を引きずりながら、老天狗は女鴉天狗の願いとやらを先読みした。
「物見の仕事か?」
「はい。例の虫を分けて頂きたく──」
老人は再び天狗の面を外し、更にその高い鼻の部分をパカッと面から取り外した。破壊したのではなく、初めからそのような仕組みになっていたらしい。
つまりこれは筒状の小物入れ、その天狗の鼻を逆さにして、トントンと手の平に取り出したのは、何やら数匹の小さな虫。一見、尺取り虫のようだが、見たことのない虫だ。
その中から最も活きの良さそうなのを指先で摘み上げて、老人は言った。
「一匹だけじゃぞ。もっと必要なら、その度に顔を見せに来い」
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