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「ケイー。写せたー?」
「まだもうちょいかかる」
「ケイー。まだー?」
「……ソウタさん、近い」
俺の肩に凭れながらソウタは缶ビールを意味も無くくるくると手の中で回している。右肩を占領されているせいで、俺は上手く文字が書けないでいた。
「眠いなら、ソファーで横になったら?」
「眠くないもん」
言いながら船を漕ぐソウタに俺は苦笑する。
ソウタは酒が弱い。それで記憶を失くす。それでも呑みたがるのは、本人曰く「ストレス解消」らしい。ソウタは院に上がるために授業をかなり詰めてる。それがストレスの原因かな。
「ソウタ……」
とうとう目を瞑ってしまったソウタの手から、缶ビールをそっと抜き取って机の上に置いた。「うう……」とソウタは唸ったが、起きない。仕方が無いので、重くなった利き手を頑張って動かす。あと、三行書けば、完成。それにしても……。
穏やかな寝息が耳にかかってくすぐったい。長い睫毛が、ソウタの呼吸に合わせて震えている。……綺麗だよな、ソウタって。こんな美人、知らない。本当に綺麗だ。
綺麗しか出て来ない自分の語彙力に絶望するが、他に言い表す言葉を俺は知らない。ソウタって、どんな子がタイプなんだろ。たぶん、っていうか絶対ソウタはアルファだから……彼氏作るかもしれないんだよなあ。
そう考えたら、胸の奥がずきりと痛んだ。何だ、この気持ち……。あれ? 俺、もしかしてソウタのこと……。
眠るソウタを眺める。キス、出来そうな距離。このまま……。
「うう……ケイの馬鹿……」
その言葉に驚いて、思わずソウタと距離を取ってしまった。支えるものを無くしたソウタは、ぐらりと前に倒れる。
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