一、

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桂木はゼミが終わったあと、担当教官に卒論について個別に相談した。卒論で悩んでいたのだが、教官の話を聞いてかえって悩みが深くなった。卒論のテーマは「何故日本は早期に和平が出来なかったのか? 終戦時における日本外交の考察」だった。 担当の教官は在日朝鮮人で、そのせいもあったものだろう。ひどく日本を憎んでいた。自然、桂木へのアドヴァイスも日本陸軍の悪口になった。 曰く、日本陸軍がかつて大陸侵略を行い、最後は国民を巻き添えにして自滅を企んでいたのだ。そのために、日本は和平に踏み切ることができなかった。それが戦争の犠牲を増やしてた要因で云々という内容だった。 担当教官のアドヴァイスは、多くの本にそう書いてあって世間一般に言われている内容で、だから確かにその通りなのだろう。しかし、桂木にしてみれば、その内容ではすでに多くの論文になっているはずで、そこに何ら新しい発見は無かった。桂木には新しい何かを卒論に織り込みたかった。何か他にあるはずだ。桂木はそう言う考えにとらわれていた。単純に日本陸軍のせいにしてしまえばそれはそれで大いに楽ではあるのだが。しかし、桂木が若い時から薫陶を受けた祖父は日本帝国陸軍の将官だった。そのためにあの祖父が? と言う思いがぬぐえなかったし、一方的に陸軍を悪者にしてしまうステレオ・タイプに何となく違和感を感じていた。何よりも、何かあっと言わせるような何かを織り込みたいという思いが強かった。
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