白魔のお仕事

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 どこかの世界の、誰かは言ってたらしい。この世界に必要のない人間はいない、と。誰だって得意なことと苦手なことがあって、それを補い合いながら生きているのだと。  それを聞いて最初に僕が思ったことは――綺麗事言ってんじゃねえよこの野郎、だった。 「個性を受け入れろってわけでしょ。わかってますよ、そんなこと」  荒野を歩きながら、僕はぶちぶちと杖を握り直す。 「この世界では、生まれついてみんな持っている“才能”が決まってる。剣士の才能を持ってる奴、弓使いの才能を持ってる奴、モンクの才能を持ってる奴。みんながみんな、自分の“才能”にあわせた仕事を探すのが当たり前。つか、自分の“才能”以外はみんなからっきしなのも当たり前。センセイは言いたいんでしょ、俺に自分の運命を受け入れろって」  目の前を歩くのは、僕が師事することになったお師匠サマだ。本人の才能は“赤魔導士”だが、その鋭い観察力もあってコーチとしても非常に優秀と目されている人物である。まだ三十路を越えたか越えてないかという年齢なのに、彼に敬意を払う村人たちは後を絶たない。堅物の僕の父でさえそうだった。この人に教わることができるなんてお前は本当に幸運なんだぞ!と何度も言われたものである。  別に、僕だってそれに不満があるわけじゃない。師匠は立派な人だ。小さくて不便な村だというのに僕達のところに留まり、多くの優秀な戦士を輩出してくれた。そして危険なモンスターが近づいてきていると分かればいつも真っ先に飛び出していって討伐に行く。村のみんなに慕われるのは当然だろう。僕だって、この人のことは嫌いでもなんでもない。  そう、だから――さっきから愚痴っているのは、全く別のことだ。 「センセイはいいですよね、“赤魔導士”で。魔法も剣も使えるジョブなんて、どこ行っても引っ張りだこじゃないですか。…その点僕なんか……よりにもよって、“白魔導士”なんて……」  この世界の人間が“ジョブの才能”に目覚めるのは、十歳前後だとされている。実際、僕が目覚めたのももうすぐ十歳の誕生日という時期だ。今から約一年前のことである。転んで泣いている弟を助け起こそうとした瞬間、弟の擦りむいた膝小僧の傷が綺麗になくなったのだ。無意識の回復魔法――才能に、目覚めた瞬間だった。
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