白魔のお仕事

3/9
前へ
/9ページ
次へ
 この世界で成人と見なされる基準は二つある。一つが二十歳になること。もう一つが才能を開化させ、立派な“ジョブ”として目覚めることだ。僕はその瞬間間違いなく大人の階段というやつを登ったのである。両親はとても喜んでくれた。親戚や、村の人たちもだ。――ショックを受けて泣きそうになっていたのは、僕自身だけだったのである。  だってそうだろう。白魔導士だ。回復魔法と補助魔法の専門家だが、言ってしまえば“それだけ”なのである。技を鍛えれば聖なる魔法で敵を攻撃することもできるようになるというが、それは本当に白魔導士の極地に立った一部のスペシャリストだけ。体力もなければ防御力もない。当然敵を攻撃する火力なんてあるはずもない。――なんでよりによって白魔導士なんだ、と自分の運命を呪ったものである。 「白魔導士は嫌か、コルト」 「嫌に決まってんだろ!」  崖の上で立ち止まり、振り返ったお師匠サマに僕は叫んだ。 「だって…白魔導士って、戦えないじゃないですか!僕は戦うジョブがよかった…最前線で、ばったばったとモンスターを薙ぎ倒す剣士やモンクになりたかったんだ!!いつその力に目覚めるかって、毎日わくわくしながら待ってたのに…なんで…っ」  思い出して涙が滲みそうになる。この世界で、冒険者となる者は多い。何故ならあまりにも未開の土地が多く、その土地から恒久的に資源を見つけ土地を開拓していかなければ、増え続ける人口に対処できないからだ。危険ながら、未開の森や遺跡に入って調査し、モンスターを討伐して人々に利益をもたらしてくれる冒険者達は皆に尊敬されるものである。勿論――そうやって喜び勇んでダンジョンに行ったきり、戻ってこないパーティもけして少なくはないのだが。  冒険者を目指す者は、多くの場合才能に目覚めてから成人するまでの間、地元で己のジョブを磨くのに専念する。そして、二十歳になったところで冒険者達を派遣するギルドに登録し、仲間を募って未開の土地へと旅立つのだ。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加