白魔のお仕事

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 僕もまたそうやって冒険者になることを夢見ていた一人であった。テレビや新聞で、冒険者たちのことを取り上げない日はない。中には記者の仕事をしながら冒険者として旅を続け、危険な土地の情報を民衆に届けてくれる剛の者もいる。僕もまた、幼い頃からそんなテレビや雑誌の記事を見て育ってきたのだった。そうして特に憧れたのが――伝説の冒険者チーム、“カタストロフィ”のリーダー、アイザック・ユニバースである。  アイザックは優秀な剣士だった。一見すると細身にも見える体つきでありながら悠々と大剣を振り回し、どんな巨大な怪物にも恐れることなく立ち向かっていく。皆の盾となるべくいつも先陣を切って進んでいく様は勇ましく、その甘いマスクもあって絶大な人気を誇る冒険者だった。  いつか自分も、彼のようになりたい。みんなを守れる、強くてカッコいい冒険者になるのだ。  そう夢見てきた――願ってきた。それなのに現実はけして、甘いものではなかったのである。 「白魔導士なんて、回復とか補助しかできないじゃん。いっつも後ろに下がって、剣士やシーフの人達が傷つくのを見てるしかできない。でもって、前衛の人達が怪我をしなきゃ出番も来ないんですよ?」  僕が言うと、なるほど、とお師匠サマは頷いた。 「つまり、君は前衛で敵を倒すジョブがよかったってわけだ」 「当たり前でしょ!みんなそうだよ。白魔導士なんて、可愛くてか弱いオンナノコだってできる仕事じゃん、直接敵と戦うこともないんだからろくに怪我もしないし!僕だってみんなの盾になって、かっこよく敵を蹴散らす仕事がしたかったよ…っ!!」 「ふむ、なるほどなあ。君の言いたいことはわかった。確かに白魔導士って仕事は地味かもしれないなあ。しかも、君が憧れている“カタストロフィ”の白魔導士は、あのソフィーだ。可愛くて可憐なヒロインが、みんなの無事を祈りながらする仕事…みたいなイメージがつくのもわからないではないぞ」  でもな、とお師匠サマは続ける。
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