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「!…今のは…っ」
大きなワームを倒すのは並大抵のことではない。防御が間に合わず、ワームの太い尾の一撃がシーフの少年を吹き飛ばしていた。かなりの破壊力だ。全身の骨が折れてもおかしくはない。――しかし、即座に柔らかい光が彼降り注ぎ、少年を立ち上がらせていた。傷が治ったのだ。
「今の回復魔法…クオースっていうあの子、攻撃が飛んでくる前から…」
「そう、予測して…先んじて詠唱していたんだ。そのおかげで、彼は一瞬ダメージを負っただけで済んだ。シーフがやられることも、やられるタイミングも…同時に補助魔法は間に合わないことも彼は瞬時に判断して……その場で最も有用な魔法をかけてみせた。つまりはそういうことなのさ」
やがて戦闘が終わる。あちこちダメージを負いながらも、彼らのバトルは終了していた。あんなメンバーで――自分達の五倍の背丈はあるような巨大ワームを仕留めてしまうだなんて。それがあの、子供ばかりのメンバーの功績だというから驚きだ。
その立役者のクオース少年は、他のメンバーに頭をくしゃくしゃに撫でられて恐縮している。慕われもするだろう――あれほど的確に指示を出し、魔法をかけられる頼もしい後衛なのだから。
「白魔導士の仕事を、奴はちゃーんとわかってる。奴の仕事は、時には真っ先に突っ込んでいくあらゆる戦士より尊いものなんだってこともな」
「…お師匠サマ……」
「で。…お前、それでもまだ…白魔導士なんて嫌だ、地味で楽な仕事だって言い張るつもりかい?」
「………」
白魔のお仕事。僕は何も――何ひとつわかってなどいなかったのだ。
前に出て、戦うばかりが冒険者ではない。時には後ろに控え、皆を守るために全力を尽くすことが――どんな力より、時には貴いものに変わるのだ。
「……お師匠サマ」
僕は自分の浅はかさを知り、恥じた。
そして意を決して、拳を握り直したのである。
「僕を…鍛えてください!立派に、白魔のお仕事が果たせるように!!」
自分の弱さを認めた時、人はまた一歩強くなるのだ。
新しい目標が決まった。僕はクオースの姿を見下ろして、心の中で呟くのである。
――いつかきっと…君を追い越してみせるんだから!
さあ――始めよう。
冒険が冒険にできるまで――自分にできる精一杯を。
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