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自分が見ているものを相手も見ているのか確信が持てず、何も言えない。
言ったところで狼男と吸血鬼が同じ大学に通い、うっかりベッドを共にしてるなんて天文学的な確率の偶然をお互い認める事は出来ない。
牧田はさっとカーテンを引き、何も見なかった事にした。
見えない筈のものが見えるのは恐怖だ、しかし今はそんなものは見えていない。
まだ身体の中の熱がくすぶっていた。
初体験の相手はいつも自分の世話を焼いてくれる譲だから安心できるし、しかも今夜は満月で血が滾っている。
体位を変えようと膝の上の譲を背中からベッドに寝転ばせた。
点けっぱなしの電灯に思わず遠吠えしたくなるのを我慢して見下ろせば、眼下にはきめ細かい色白の肌。その白い絹肌に自分が付けたうっ血の痕の紅が生々しく誘いかけてくる。
気付かない内に舌なめずりしていた。
譲は、混乱していた牧田の瞳が再び興奮でぎらつくのを見た。喉仏を上下させて生唾を飲み、再び自分を貪ろうとする肉食の獣の気配に一瞬眩暈を起こしそうになった。
求められるのではなく、獲物として身体の隅々まで味わい尽くされる予感にぞくっとした。
それは、今夜の攻守逆転を諦めることを意味していた。
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