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理学部化学科の譲と獣医学部の牧田は、大学に入ったばかりの時合コンで知り合った。タイプこそ違うけれど女受けのよい二人は、あちこちで合コン要員リストに加えられており、何度か顔を合わせる内に仲良くなっていた。
一度、飲み会で気の合った女の子たちと一緒に動物園に行ったことがある。
入ってすぐいたのは象やカバだったからよかったけど、周るにつれて牧田がいろんな哺乳類から威嚇されたり怯えられたのだ。
始めは笑っていた女の子たちも、コアラやレッサーパンダが猛ダッシュで走り去るのを見て、流石にドン引きしていた。
動物に好かれない癖に獣医学部とか、受け狙いで入ったとしか思えない。
そう譲が揶揄うと、動物病院に行くつもりはないからいいんだ、と牧田はふてくされていた。
「ボルゾイとか、ウルフハウンドとかの大きな猟犬以外なら好きなんだけどな」
「ああ、大きい犬は怖いな」
譲の反応に一瞬戸惑った表情を見せたが、牧田は言葉をのみこんでうなずいた。
ブブブブ……、とテーブルの上に置いた電話が振動しながらアラームを鳴らす。
あ、と言う顔をして譲が手に取って時間を確認した。
「そろそろバイトに行くわ、お前は?」
「あ、俺も授業だからもう出る」
しなやかな筋肉のついたアスリート体形の牧田と、華奢ながらも腰の位置が高くすらりとした手脚を持つ譲がそろって立ち上がると店の中にいる店員とぼちぼち増えてきていた客から自然と注目が集まった。
伸びかけた黒髪をかき上げながら鞄を手に取ると、譲は先に立って歩き始めた。牧田はいつものようにおとなしくついて行く。
共通の知り合いの間では、譲は牧田の「飼い主」だと言われていた。
「お前そろそろ血が余ってんじゃないか?さっきも言ったけどな、世のために早く献血に来いよ」
「ああ、来週にでもいくよ」
バイト先の献血ルームへ向かう譲を見送り、牧田は次の授業に出席するために学部の校舎へと戻っていった。?
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