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午後の攻防
何が怖いかって、目に見えないものほど怖いものはない。
いる筈のないやつがいるんだぜ!
俺、霊感なくてほんとよかった、見えたら今頃気絶してるから。
「だから絶対そういうのはいないと思うんだ!」
午後ののどかな学内のカフェでそう息巻く相手に向かって譲は小さくため息をついた。
この支離滅裂な友人に、何をどこからどう突っ込むべきなのか。もっとも、突っ込みたいのは寝ぼけた発言に対してばかりではないけれど、まだそれを伝える時期じゃないと思っていた。
食べかけのケーキの事も忘れて真剣な顔で主張しているのは、いかにもスポーツが得意そうな筋肉質の男だ。アッシュグレイに染めた短めの髪が、少し子供っぽさの残る甘い顔を引き締めている。
引き結ばれた唇の端に付いたクリームが誘っている様だと思いながら、ここは大学構内のカフェでまだ昼間だから、と譲は自らを自制した。
「気絶したらいたずらされるかもな、それでもいいのか?」
はっとして顔をあげた牧田の皿にフォークが伸びてきて、オレンジ色のパンプキンケーキを削り取ってゆく。
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