午後の攻防

1/5
62人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ

午後の攻防

何が怖いかって、目に見えないものほど怖いものはない。 いる筈のないやつがいるんだぜ! 俺、霊感なくてほんとよかった、見えたら今頃気絶してるから。 「だから絶対そういう(・・・・)のはいないと思うんだ!」 午後ののどかな学内のカフェでそう息巻く相手に向かって(ゆずる)は小さくため息をついた。 この支離滅裂な友人に、何をどこからどう突っ込むべきなのか。もっとも、突っ込みたいのは寝ぼけた発言に対してばかりではないけれど、まだそれを伝える時期じゃないと思っていた。 食べかけのケーキの事も忘れて真剣な顔で主張しているのは、いかにもスポーツが得意そうな筋肉質の男だ。アッシュグレイに染めた短めの髪が、少し子供っぽさの残る甘い顔を引き締めている。 引き結ばれた唇の端に付いたクリームが誘っている様だと思いながら、ここは大学構内のカフェでまだ昼間だから、と譲は自らを自制した。 「気絶したらいたずらされるかもな、それでもいいのか?」 はっとして顔をあげた牧田(まきた)の皿にフォークが伸びてきて、オレンジ色のパンプキンケーキを削り取ってゆく。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!