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男は大佐の様子にあっけにとられていました。彼らは共に一夜を過ごしていたということが、男の目にも分かります。彼女はおそらく本当に心を許していたのだと確信していました。それなのに、この男。
「……さて、次の虐殺は何がいいと思う? ネタをくれよ」
「あなたは、本当に残酷だよ」
男は小銃を肩にしまい、曲がった制帽をかぶり直しました。
「ヤメだ。あなたの容疑はなかったことにする」そう言って背を向けます。
「待ってくれ、それは困る」大佐が引き止めます。
「次の虐殺はどうするって聞いてるだろ?」
「どうもない。もう紛らわしいことだけはするな」
二、三歩くらいでしょうか。男が歩みを進めた時、また銃声が響きました。弾は彼の背中を目掛けて当たり、ぎゅるぎゅると体の中で回転して、止まります。彼はそのまま血を吹いて、前につんのめるように倒れました。大佐はゆっくりと地面を踏みしめて、男の元へと向かいます。
「一体……あなたは……何を考えて」男はいびつなほふく前進をして逃げようとしています。
「次の虐殺はお前だ」足元の男の頭に、銃口を向けます。
「これが一番、紛らわしくないやり方だろう?」
彼は体を裏返してこちらを向き、やめてくれと首をぶんぶんと横に振っています。
「何が怖い? お前は職務を全うしただろう。名誉の殉職だ。敬礼をしろ、ちゃんと」
男は仰向けになったまま精一杯右手を伸ばします。その震える手を見ながら大佐はうなづきました。三度目の銃声が、森に響きました。
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