優しい

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「あなたはナチスの人なのに、優しいのね」  その時、少女が言いました。花のように頬を赤らめ微笑む彼女と目が合います。 「あなただって見つかったら大変なのに、それでもこんなに優しくしてくれる」  優しい。大佐はその言葉を彼女の口から聞いた瞬間、なんだか急に気持ちが悪くなりました。残酷だの鬼畜だのと言われたことは数え切れませんが、彼は生まれて一度も人から優しいなど言われたことはありませんでした。  ああ、確かに優しい演技はしている。けれどこんな俺は俺じゃない。体がムズムズしてきて、本当の自分は残酷なんだと言って、抱きしめる代わりにぎゅっと首を絞めて、思い知らせたくなりました。ですがそんなことを今しては計画が台無しになります。大佐は焦る気持ちをぐっとこらえて、彼女の視線を遮るように明かりを消しました。
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