優しい

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 次の日も、そのまた次の日も、ローリッツ大佐は少女に自分の分の食事を分け与え、シャワーを浴びさせ、夜は一つのベッドで一緒になって寝ました。人に優しくするということは彼にとって正直ストレスではありましたが、それでもやはり、彼女を殺す時のことを思い浮かべては我慢し続けました。  やがて何日も続けて大佐恒例のユダヤ人への虐殺が行われないことに伴って、周りの部下の隊員達は不思議に思うようになりました。いくらヒトラーに言われたからと言って、それを全くしなくなるような男ではないのです。収容所に就任してから、彼にとって虐殺は息をするくらいに当たり前のことだったのですから。  加えて朝昼晩、毎回「部屋で食べる」と言って支給食を持って姿を消すので、何かを部屋にかくまっているのではないかと疑い始める者も出てきました。しかしそう言う者はたいてい、「大佐が人助けなんて、そんなことをする人間に見えるのか?」という風に誰かが言うとすぐに「確かに有り得ない」と納得してしまうのでした。
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