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「愛してるの! 本当に!」
好き。愛してる。突拍子も無い言葉に、大佐は急に昨日食べたものを吐き出しそうになって、思わず手で口を押さえました。こいつは頭がおかしいのか。いや、俺を動揺させようとたくらんでいるのか。
愛なんて無縁だったし、好きだなんて言われたのはいつのことだったでしょうか。大佐は人に愛されたと感じたことは、これまでの人生で一度もありませんでした。家族からでさえ。警察官の父親からは、虐待を受けていた記憶しかありません。そしてこれからも無縁のままで良いと思っています。お陰で余計な感情に惑わされずにここまで昇進できたのですから。
「ごめんね、急に変なこと言って……」少女は続けます。
「いつか絶対、別れなきゃいけない日が来るって思ってた。でもね、私、あなたと離れたくない。私はあなたなしでは生きられないんだもの…」
まるで車酔いのような感覚。
「お願いよ、そばに置いて。そのためならなんでもするから……!」
「だめだ」
「!」
「俺たちは一緒にはいれないんだ。分かるだろ」
彼女の悲しみに呼応するかのように雨が激しく車の窓を叩きつけます。
「降りるぞ」
ブレーキをかけ始めた時に膝にこぼれた彼女の大粒の涙が、大佐の目に焼き付きのように残りました。
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