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さて、登校時間まで何をしていようか。あてもなく校舎をうろついていようかな。いや、それない。やめておこう。
そんなくだらないことを考えているとふと、どこからか、芳香剤のような匂いがした。鼻が生まれつき良くない僕でも余裕で刺激される。
ただ、棘でない。不思議な匂いだ。まろやかでもないのに心がベッドへダイブする。
そういえば、昨晩から今朝にかけての眠は良くなかった。今にも脳が覚醒を止め、記憶の欠片が集まり、静かな映像を見させてくれそうだ。
「君、ここで何してるんですか?」
「え?」
いきなり、背後から声がして僕は反射的にそういう反応をしてしまった。その声は若い女の人のものっぽかった。
20代後半?たぶん、そのくらい。見てみたい。その女性を見てみたい。
僕は後ろを振り返った。
そこには黒髪ロングの低身長細身、笑顔が良く似合う若い女性が立っていた。
見たところ、教師っぽい。いや、そうでないと逆におかしい。そこまで物騒な世の中じゃないと思う。
「君って、ここの生徒さん?」
「あ、はい……」
「ふぅん……朝練でもないのになぜ?」
なぜ、か。こっちが聞きたいよ。なんでこういう間違いをしてしまったのかを。なんて恥ずかしいこと、あの美人教師には言えない。
僕は盗み笑いをした。「美人」だとさ。
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今、思えば──僕の心はこの時点で、濃密なピンク色のインクを零していたのかもしれない。
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