鬼になるのは

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 悪態をついて、すたすたと前に進む奈津。空間の奥には小さな祭壇。そして壁画。壁に極彩色の絵が描かれていた。  そこに描かれているのは女の鬼だった。美しい着物、つり上がった目、額から生えた二本の角。鬼は包丁を研いでいる。その足元には布にくるまれた赤ん坊。  これは鬼女伝説の絵だと私たちは知っていた。  大学四年の夏休みに訪れた奈津の実家は、この洞穴を管理する神社だ。県内の鬼に関わる習俗を卒業論文のテーマにしていた私は、サークルの友人であった奈津の田舎を訪れてみたいと前から話していた。しかし、奈津は田舎の習俗に興味はなくむしろ毛嫌いしていた節があり、一緒に行くのは難しいだろうなと思っていた。私が地方とはいえ都市部で育って田舎に憧れていたのに対し、奈津はずっと田舎から飛び出したくて大学デビューした口だったから。  しかし、どういう風の吹き回しか、奈津が帰省に合わせて実家に誘ってくれたのだ。しかも、鬼女供養が行われる日程で。なんだかんだ言って奈津は優しいのだ。あまり社交的でない私となぜかいっしょにいてくれて、明るくて美人で、私を引っ張っていってくれる、口は悪いが実は優しい、大学でできた一番の親友。     
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