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鬼になるのは
洞の中は暗闇だった。
せまい空間、うるさかった蛙の声も消え、静寂が支配する。真夏なのに強い冷気に体が震える。蒸し暑かった外に比べて、なんという寒さだろうか。半袖で来てしまったことを後悔する。でも、体が震えているのは寒さのせいだけではない。この空間がどうにも恐ろしくてならないのだ。
私は、奈津の誘いに乗ったことを早くも後悔しはじめていた。
奈津が、明かりを壁に向けると、岩壁一面にびっしりとお札が貼り付けられていた。
「うわっ」
「深雪びっくりしすぎ。すごいね、わたしも初めて見た」
「無理無理、もう十分、出ようよ」
「待ってよ。せっかく来たのに。親父の話だと、たしか奥にあるはずなんだよね」
がさっ、音がする。
奈津がなにかを蹴飛ばしたのだ。
床を照らすと、黒い盆の上に、布で包まれた何かが置いてある。これって、夏祭りの祭事で運ばれたやつだ。
「これって、違うよね。赤ん坊なんてことは」
自分で言って、すうっと血の気が引くのがわかった。
「なわけないでしょ馬鹿。キジの肉を赤ん坊に見たててるって言ってたじゃない」
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