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その日は格別に晴れ渡っており、冷たい水が心地よかった。川で潜水していると、見事な泳ぎを披露する少年に気がついた。まるで魚のように水中でくるっと方向転換し、いつまでも水の中に潜ったままなのだ。僕よりも小さくて、こんな子いたかなと怪訝に思う。みんな日焼けしている中で不自然に白い肌が際立つ。腰まである長い髪が水中にたなびいている。しかも裸だったので、祖父や子供たちの話を思い出してぞわっとした。しかし、どうみても普通の子供でお化けのようには見えない。その子がようやく水面に顔を出すと、今度は川の中で立ったまま動かないので心配になった。
「どうしたの。寒くなった?」
話しかけると、少年はまん丸に目を見開いて僕の顔をじっと見る。黒目がちで吸い込まれそうな瞳。そこで気づいた。僕はこれまでもその子を見たことがある。去年もその前の年もどこかで。その子は突然に口を開いた。
「おらんこと助けてくれんか?」
「え、いいけど、君どこの子?」
「約束じゃ、約束じゃ」
僕の問いには答えず、にやっと笑ったかと思うと、少年はばしゃんと川に沈んだ。沈んだというよりは、川の水に溶けて消えたように見えた。
「うわあっ」
もう少年はどこにもいない。僕の叫び声にみんなが集まる。
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